Japanese/Reader/The Tongue-Cut Sparrow

したきりすずめ edit

とんと むかし、 ある ところ に おじいさん と おばあさん が いました。

おじいさん は まい(にち) (やま) へ しばかり に でかけ ます。

ある ()、 おじいさん が べんとう を () に つるして おいた ら、 ちゅんちゅん すずめ が やって き ました。

「おや、 うまそうな ごちそう だ こと。」

すずめ は べんとう づつみ の なか に こっそり もぐりこみ ました。

「やれ、 やれ、 はら が へった。」

おじいさん が しごと を やめ、べんとうづつみ を

とろう と したら、すずめ が ちょっこり くび を

だして ねて い ます。

「よし、 よし、おまえ に も くわせて やる ぞ。」


おじいさん が つつみ を ひらく と どう でしょう。

すずめ は もう べんとう を たらふく たべて ころころ ふとって い ました。


おじいさん は すずめ を いえ に つれて かえり ました。

なんとも かわいい すずめ で ちょんちょん ないちゃ おじいさん の そば を はなれ ません。


おじいさん は この すずめ に おちょん と

いう ()まえ を つけて それ は それ は だいじ に

そだて ました。


よい てんき の 日 でした。 おばあさん が いろり で ぐつぐつ のり を にて い ました。

「おじいさん、 はよ しごと に ゆき なされ。」

「でも、 おちょん が かわゆうて......」

おじいさん は おちょん を () に のせ、はなし ません。

「ふん、 すずめ ばっかり かわいがって。」

おばあさん が おこって いい ました。

そこで おじいさん は しぶしぶ おちょん を はなして 山 へ しごと に でかけ ました。


「おちょん、 ねこ に のり を くわれん よう しっかり ばん を して おれ。」

おばあさん は (かわ) へ せんたく に いき ました。

のり は いい ぐあい に さめて、 なんとも うまそう。

おちょん は もう がまん できず に のり を たべ ました。


おばあさん が もどって くる と、なべ の なか の のり が ありません。

「おちょん、 のり は どう した。」

「ねこ が くうた よ。」

おばあさん が ねこ の (くち) を みる と のり が ついて い ません。

ところが おちょん の 口 には のり が いっぱい です。

おちょん は あわてて なめ ました が もう おそい。

「この おんしらず め が。」

おばあさん は おこって おちょん の した を はさみ で ちょんぎり、 そと へ おいだし ました。


おじいさん は おちょん に あいたくて しごと が すむ と いそいで もどって き ました。

ところが おちょん の すがた が あり ません。

「おばあさん、おちょん は どうした。」

「のり を くうた で、した を ちょんぎり おいだして やった だ。」

「なん じゃ と。そんな むごい こと を......」


おじいさん は ぽろぽろ なみだ を こぼし ました。

しばらく しょんぼり して いました が、おちょん の こと を おもう と じっと して い られ ません。

「おら、 おちょん を さがして くる。」


おちょん すずめ は どっち へ いった

したきりすずめ は どっち へ いった

なき そうな こえ で よび ながら おじいさん は とぼとぼ あるいて いき ました。

すると うし あらい が 川 で うし を あらって い ました。

「うし あらい どん、うし あらい どん、したきりすずめ を みなんだ か。」

「みた みた。だ ども、 うし を あろうた (みず)(さん)ばい のまにゃ おしえん ぞ。」

おじいさん は がまん して その 水 を のみ ました。

「そん なら この さき の うま あらい どん に きく が ええ。」


しばらく いく と、うま あらい が 川 で うま を あらって い ました。

「うま あらい どん、うま あらい どん、したきりすずめ を みなんだ か。」

「みた みた。だ ども、 うま を あろうた 水 を 三 ばい のまにゃ おしえん ぞ。」

おじいさん は がまん して その みずを のみ ました。

「そん なら この さき の な あらい どん に きく が ええ。」


また また しばらく いく と、 な あらい が 川 で だいこん を あらって い ました。

「な あらい どん、な あらい どん、したきりすずめ を みなんだ か。」

「みた みた。だども、 だいこん を あろうた 水 を 三 ばい のまにゃ おしえん ぞ。」

おじいさん は がまん して その 水 も のみ ました。

「そん なら この さき の たけやぶ に いく が ええ。」


したきりすずめ はどっち へ いった

おちょん すずめ はどっち へ いった

おじいさん が たけやぶ に はいって いく と、 (いっ)ぽん の ふとい たけ の あな から すずめ の こえ が し ました。

「おじいさん か、おばあさん か。」

「おじいさん じゃ おじいさん じゃ。」

「そん なら はよう はいり ませ。」

おじいさん が たけ の あな を のぞいた ら、みるみる あたり が くらく なり、 き が とおく なり ました。


はっ と き が つくと、おじいさん は りっぱな ざしき に すわって い ました。

「おじいさん、 よく きて くれ ました。」

きれいな きもの を きた すずめ たち が ごちそう を

はこんで くる やら、うた を うたう やら。おじいさん は

じかん の たつ の も わすれて みとれて い ました。


おじいさん が かえろう と する と、すずめ たち が ふたつ の つづら を もって き ました。

「おじいさん、おみやげ です。おもい つづら と かるい つづら と どっち が ほしい。」

「おら としより だ で かるい ほう が ええ。」


おじいさん が いえ に もどって つづら を あける と どう でしょう。(おお)ばん ()ばん が ぎっしり。

「あれ まあ、おじいさん、 どこ で もろうた。」

「おら、 すずめ に もろうた。」

おじいさん は おばあさん に きょう の こと を くわしく はなして あげ ました。 その とたん、 おばあさん が いい ました。

「なん ちゅう ばかもん だ。 なんで おもい つづら を もろうて こん。 よし、 おら が いって くる。」


したきりすずめ は どっち へ いった

おちょん すずめ は どっち へ いった

おばあさん が こえ を はりあげる と たけ の あな から すずめ の こえ が し ました。

「おじいさん か おばあさん か。」

「おばあさん じゃ おばあさん じゃ。」

「そん なら はよう はいり ませ。」


き が つく と おばあさん は いつ の ま に やら ざしき に すわって い ました。

すると きもの を きた すずめ たち が かけた ちゃわん でおちゃ を もって きました。

「おら ちゃ など ほしく ない。 はよう つづら を くれ。」

おばあさん は おもい つづら を せおう と、さっさと かえって いき ました。


ところが つづら は おもくて おばあさん は あっち へ ふらふら、こっち へ ふらふら。

やっと たけやぶ を で ました が もう 一ぽ も あるけ ません。

「どれ この へん で ちょっくら やすんで なか を のぞいて みる か。」

おばあさん は つづら を おろし、 そっと ふた を あけ ました。

「ぎゃあ!」


おばあさん は とびあがり ました。なんと つづら の なか から

へび やら むかで やら が つぎつぎ と でてきて おばあさん を

さし ころして しまい ました。